消化管疾患の病態と治療法の基礎的研究
代表:早河翼
私たちのグループは、ヘリコバクター関連胃炎・胃癌の研究を始め、消化管(胃・小腸・大腸)の炎症と癌の病態を解明すべく最先端の研究を行っている、歴史ある研究室です。多くのマウスモデルとヒトのサンプルを使用した研究により、これまでに数々の優れた業績を輩出し、臨床に直結する新しい治療法の可能性を提唱し続けています。在籍者のほとんどが海外研究留学経験あり、もしくは留学中であり、国外研究室との交流も深い国際的な研究室です。 世界をリードする研究を推し進めるべく、若い消化器内科医の皆さんを広く募集しています。日常診療のルーティンワークから一歩離れて、学術的な視点を取り入れてみましょう。きっとあなたも、世界をすぐそこに感じられるはずです。
1.胃および大腸の炎症発癌機序の解明
消化器領域において、慢性炎症と発癌との関連はきわめて密接です。とくに慢性胃炎からの胃癌、炎症性腸疾患からの大腸癌などが知られています。しかしながら、なぜ慢性炎症が発癌と関連するのかというメカニズムは大部分が不明のままです。我々はヘリコバクターピロリ感染マウスモデルと遺伝子改変マウスを組み合わせ、遺伝子変異やシグナル伝達異常による胃発癌機序について研究しています。また大腸炎から発癌がみられるマウスを用いて、大腸発癌に関連する分子を明らかにしています。
2.腸内細菌叢が関連する病態の解明とその制御法の開発
近年腸内細菌叢の研究が進み、ヒトの共生体としての役割が認識されるようになってきました。一方で細菌叢の破綻によって栄養の代謝や免疫反応に変化が生じ、メタボリックシンドロームや炎症性腸疾患の原因となることも知られてきました。炎症性腸疾患は比較的若年者に発症することが多く、原因として遺伝因子、環境食事因子、腸内細菌などの関与が考えられていますが、未だ大部分は未解明です。我々は、遺伝的要因を背景としたヒトの免疫や防御機構の破綻と、腸内細菌の相互反応が原因になるとの仮説にもとづいて研究を行い、とくに宿主側の免疫関連分子(Tgf-βなど)や上皮の細胞骨格分子(E-cadherinなど)などの異常が腸内細菌叢の劇的な変化をもたらし、結果として慢性腸炎を引き起こすことを明らかにしました(J Immnol, 2016)。これらの結果をもとに、炎症性腸疾患における腸内細菌叢と宿主恒常性の役割を明らかにし、有効な治療法の開発を目指しています。また、東大消化器内科の豊富な臨床データを用い、臨床研究としてヒト腸内細菌叢を分析し、大腸癌、大腸炎、憩室症などの大腸疾患、またメタボリックシンドロームなどに関連する変化を解析中です。
3.癌起源細胞と周囲微小環境の研究
我々のグループでは20種類以上の遺伝子改変マウスを組み合わせることによって、多くの消化器癌モデルを樹立しています。また、近年同定された消化管幹細胞を選択的に標識するマウスを用いて、癌細胞の起源とその特性についての研究を開始しています。幹細胞や発癌の制御には、周囲の微小環境の存在が極めて重要です。癌組織内の免疫細胞や線維芽細胞、内皮細胞や神経細胞に至るまで、多くの細胞群の役割を網羅的に解析しています。また、ヒト及びマウス消化管幹細胞の三次元オルガノイド培養法を用いて、in vitroで分化・発癌のメカニズムを検討しています。これらの多彩なマウスモデルとin vitroオルガノイドを用い、消化器癌の新規治療法の確立をめざしています。
早河グループの業績(抜粋)
1) |
Hayakawa Y, Hirata Y, Nakagawa H, et al. Gastroenterology. 2010 Mar; 138(3): 1055-1067. |
2) |
Hayakawa Y, Hirata Y, Nakagawa H, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Jan 11; 108(2): 780-785. |
3) |
Jin G, Westphalen CB, Hayakawa Y, et al. Gastroenterology. 2013 Oct; 145(4): 820-30. e10. |
4) |
Westphalen CB, Asfaha S, Hayakawa Y, et al. J Clin Invest. 2014 Mar 3; 124(3): 1283-95. |
5) |
Zhou J, Hayakawa Y, Wang TC, et al. Cancer Cell. 2014 Jul 14;26(1):9-11. |
6) |
Zhao CM, Hayakawa Y (co-first author), Kodama Y, et al. Sci Transl Med. 2014 Aug 20;6(250):250ra115. |
7) |
Hayakawa Y, Jin G, Wang H, et al. Gut. 2015 Apr;64(4):544-53. |
8) |
Worthley DL, Churchill M, Compton JT, et al. Cell. 2015 Jan 15;160(1-2):269-84. |
9) |
Asfaha S, Hayakawa Y, Muley A, et al. Cell Stem Cell. 2015 Jun 4;16(6):627-38. |
10) |
Hayakawa Y, Ariyama H, Stancikova J, et al. Cancer Cell. 2015 Dec 14; 28(6): 800-14. |
11) |
Hayakawa Y, Sethi N, Sepulveda AR, et al. Nat Rev Cancer. 2016 Apr 26; 16(5): 305-18. |
12) |
Hayakawa Y, Sakitani K, Konishi M, et al. Cancer Cell. 2017 Jan 9; 31(1): 21-34. |
13) |
Hayakawa Y, Wang TC. Gastroenterology. 2017 Jun;152(8):2078-2079. |
14) |
Hayakawa Y, Wang TC. Science. 2017 Oct 20;358(6361):305-306. |
15) |
Renz BW, Takahashi R, Tanaka T, et al. Cancer Cell. 2018 Jan 8;33(1):75-90.e7. |
16) |
Niikura R, Hayakawa Y*, Hirata Y, et al. Gut. 2018 Oct;67(10):1908-1910. |
17) |
Hayakawa Y, Wang TC. Cell. 2018 Jul 12;174:251-253. |
18) |
Renz BW, Tanaka T, Sunagawa M, et al. Cancer Discov. 2018 Nov;8(11):1458-1473. |
19) |
Hayakawa Y*, Tsuboi M, Asfaha S, et al. Gastroenterology. 2019 Mar;156(4):1066-1081. |
研究内容や成果などについては、当グループ独自のホームページ もご覧ください。