概要

 消化器がんを含めた固形がんの患者数は年々増加傾向であり、それに伴いがん薬物療法を受ける患者数も増え続けています。がん薬物療法の主な目的は、切除不能例に対する予後延長や症状の緩和ですが、近年は集学的治療の一つとして、切除可能例に対して周術期に抗がん剤治療を併用することで、その治療成績が向上することが知られています。また、切除不能と診断されても抗がん剤治療が奏功すれば、手術に移行できる症例も一部ではありますが認めるようになってきています。

 がん薬物療法には、殺細胞性抗癌剤、分子標的薬(がん細胞で異常のある部分をピンポイントに攻撃する薬剤)、免疫チェックポイント阻害剤(自分自身のリンパ球ががん細胞を攻撃できるように調整する薬剤)の3種類があり、従来から使われていた殺細胞性抗がん剤に加えて、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤が使用可能になったことでその治療成績が飛躍的に向上しました。一方では、これら新規薬剤特有の有害事象も認めるようになり、適切ながん薬物療法を行い、その副作用のマネージメントを行うためには、より高度な知識や技能が必要になってきています。当院では、消化器がん領域においては消化器内科・臨床腫瘍科が中心となり、臓器横断的・多職種連携での安全かつ質の高いがん診療を行っています。

薬物療法(肝細胞がん)

 肝細胞がんの薬物療法(抗がん剤治療)は外科的切除やラジオ波焼灼術などによる根治的治療が難しい患者さんを対象に行います。治療方法には点滴や経口投与があり、免疫細胞を活性化してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害剤も用いられることがあります。肝細胞がんの治療では肝臓の働きが保たれていることが重要であり、肝機能が低下している患者さんでは治療が行えないこともあります。基本的には副作用の状況をみながら薬物療法の効果がある限りは治療を継続することが多いですが、他の治療方法(肝動脈塞栓術、外科的切除、ラジオ波焼灼術等)と組み合わせることで治療効果を最大化させるような試みも行っています。

治療実績

 2009年に本邦で始めて肝細胞がんに薬物療法が承認されてから、当院では延べ400人以上の患者さんに薬物療法を行ってきました。近年では免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療方法が第一選択薬となり、年間30人以上の患者さんに初回治療導入を行っています。少しでもよい治療方法の可能性を模索するために、当院独自の臨床試験や多施設共同試験、治験等にも積極的に参加しており、患者さんが希望されればご案内することも可能です。当院の特徴はキャンサーボード等を介して外科・内科・放射線科・病理診断科が一体となり患者さんの最善の治療を考える体制が整っている点であり、抗がん剤が奏功した後に外科切除を依頼したり、手術後の患者さんが再発した際には消化器内科にてスムーズに薬物療法導入したりする等、連携の取れた診療を行っています。

薬物療法(胆膵がん)

 膵臓がん、胆道がんは難治がんの代表であり、早急に診断を行い治療方針を決定します。薬物療法(抗がん剤治療)は主に外科的切除による根治的治療が難しい患者さんを対象に行います。近年は切除可能であっても周術期 (手術前および手術後)に抗がん剤治療を併用することで、その治療成績が向上することが知られており、一般的になってきています。

 治療方法には点滴や経口投与があり、胆道がんにおいては免疫細胞を活性化してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害剤も用いております。

治療実績

 当院では膵がんは年間約80例、胆道がんは年間約40例の方に初回治療導入を行っております。また、肝胆膵外科、放射線科、病理部と密に連携し、切除可能と判断された患者さんだけでなく、切除不能と判断された患者さんに対しても、抗がん剤治療を行いながら、奏功した場合は手術の可能性を検討します。

 当院では保険適応となっている標準治療に加えて、治験も積極的に行い、がん治療成績の向上を目指しております。また、標準治療以降の治療選択肢を増やすことを目的にがん遺伝子パネル検査も積極的に行っております。がん遺伝子検査は膵がん、胆道がんを合わせて年間約50例の方に検査を提出しております。

薬物療法(食道がん・胃がん・大腸がん)

 食道がん・胃がん・大腸がんの薬物療法(抗がん剤治療)は、外科手術などによる根治的治療が難しい患者さんを対象に行います。また、手術による治癒率向上・再発抑制のために手術前後に一定期間、補助化学療法として治療を受けられる患者さんもいます。近年の開発により治療方法は多数あり、点滴の治療、内服の治療に加え両者を組み合わせた治療を行います。平均して3~5種類程度の治療を受けられます。多くの治療は、外来通院にて行うことができ、なるべく患者さんの日常生活に影響がでないよう配慮しつつ行われます。

治療実績

 当院では、常時約100人の患者さんが食道がん・胃がん・大腸がんの薬物療法のために通院されています。近年、食道がん・胃がんおよび一部の大腸がんにおいては、免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた治療方法が第一選択となりました。新たに認可された分子標的薬などもあり、毎年のように新しい治療法が開発され治療成績も向上しつつあります。ガイドラインに沿った治療を基本としつつ、患者さんには最新の治療を先取りしてお届けできよう、当院独自の臨床試験や多施設共同試験、治験等にも積極的に参加しております。また、がんの診療に携わる内科・外科・放射線科・病理診断科にて患者さん個々の治療方針を診療科横断的に話し合うキャンサーボードが定期的に行われております。話し合いでは、当初、根治的手術は難しいと診断された患者さんが、薬物療法によりがんの縮小を得て行う手術、いわゆるコンバージョン手術などの検討も積極的にされております。