食道は食べたものを胃に送る働きをしている臓器です。食道がんは早期には症状がないことが多く、症状が出現してから発見された場合は進行していることがほとんどです。症状は飲食物がつかえる、飲食時の胸の違和感や痛み、体重減少、嗄声(声のかすれ)、咳、首のリンパ節が腫れる、などの症状がでます。また、がんが大きくなると食道が閉塞してしまうため、飲食をすると嘔吐してしまい、食事が摂れなくなります。
食道がんには主に2つの組織型があり、日本人において見られる食道がんは90%以上が扁平上皮がんという組織型であり、喫煙と飲酒が危険因子と言われています。特にアルコールが体内で分解された時にできるアセトアルデヒドを体内で分解しにくい体質の方、つまり『飲酒時に顔が赤くなる方』は飲酒による発がんのリスクが高いことがわかっています。
なお、もう1つの組織型である食道腺がんは、欧米人には多くみられますが、日本人の食道がんでは5%以下と頻度は少なめです。理由としては、欧米人には胃液が食道へ逆流して生じる逆流性食道炎と関連するバレット食道をもつ人が多いためと言われています。ただ昨今、日本でも食道腺がんは増加傾向となっており、注意が必要です。
診断には上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査や上部消化管造影(バリウム)検査が行われます。胃カメラはカメラで直接がんを視認できるため、バリウム検査で発見しにくい早期の病変や平坦な病変を発見することができます。胃カメラでがんの組織検査(生検と言います)を行い、食道がんであると診断されたら、次にがんがどれだけ深く食道の壁に潜り込んでいるかという深達度を診断するために特殊な光を使用した拡大内視鏡検査を行います。さらに、リンパ節への転移、肝臓・肺・骨など他臓器への転移の有無を検索するためにCT検査やMRI検査、PET検査などを行います。
進行期の食道がんでは、血液検査で貧血を認めたり、SCC・CYFRA ・CEAといった腫瘍マーカーの上昇を認めることがあります。
進行期の食道がんでは、以下の①〜③の状態に当てはまらなければ、手術あるいは化学放射線療法(抗がん剤と放射線治療の併用)で根治を目指します。日本では手術前に抗がん剤治療を行ってから手術を行うことがあります。
① がんが食道の壁を越えて手術でとりきれないほど拡がっている
② 食道からかなり離れたところにあるリンパ節に転移がある
③ 肝臓・肺・骨などの他臓器転移がある
①、②の場合には、化学放射線療法あるいは化学療法(抗がん剤単独)が行われ、③の場合には化学療法を行います。抗がん剤には、点滴と内服のものがあり、どちらかだけを使用するときと、組み合わせて使用するときがあります。事前に採取した病理組織を用いて、特定のタンパクや遺伝子の異常を検査することで、より効果が期待できる抗がん剤を選択します。通常2-3週間に1回の頻度で外来に通院し、抗がん剤の点滴や処方を受けます。
先にも述べたように、食道がんは大きくなると食道を閉塞させ食事を摂ることができなくなります。治療を開始する前にこのような状態である場合には、一時的に胃ろう(お腹に小さな穴を開け、チューブを通し、直接胃に食べ物を流し込むためのもの)を作り、胃ろうから食事を摂れるようにしてから治療を開始することがあります。また、金属ステントという筒をがんで狭くなった場所に置いて拡げる治療を行うことがあります。ただし金属ステントを挿入すると、その部分の穿孔(穴が開く)を招く危険があり、その部分への放射線治療はできなくなります。そのため、患者さんの治療予定を考慮した上で金属ステントを置くかどうかを決める必要があります。
(共通 化学療法について)
はじめて化学療法を受ける場合や、抗がん剤の種類を変更する場合は、原則的に入院が必要となります。なぜなら、抗がん剤には、吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感、食欲不振、アレルギー、貧血、ホルモン障害などの副作用があるためです。副作用に対しては、症状を軽減するための薬を併用する、必要に応じて他の専門診療科の診察を受ける、などの対応を入院中のみでなく外来診察でも行い、できるだけ苦痛なく長く化学療法を受けられるように診療していきます。抗がん剤の治療中は、3カ月に1回程度、造影CT検査、MRI検査等の画像検査、採血による腫瘍マーカーの測定を行うことで、抗がん剤が効いているかどうか観察します。一定の時間が経過すると、がんは抗がん剤に対する耐性を獲得し、抗がん剤を投与していても進行しだしてしまいます。そこで、ある抗がん剤の効果が不十分と判断したときには、別の種類へと変更します。使える抗がん剤がなくなってしまいそうなときには、数百種類の遺伝子異常を同時に調べることができる「がんゲノムプロファイリング検査」を行い、効果が期待できそうな抗がん剤が見つかった場合には、患者申出療養や治験という形で抗がん剤治療を行う場合があります。