早期の胃がんは無症状のことが多いのですが、一部の人は軽度の食欲不振、腹部不快感、胸やけ、げっぷ、吐き気などの症状を訴えることがあります。進行胃がんになると、食欲不振が強くなり、腹痛、膨満感、出血(血を吐く、黒い便が出る)などの症状が現れるようになります。そしてさらに進行すると、肝臓・肺・腹膜・腹膜・骨・脳など他の臓器に転移し、食事が摂れない・黄疸(目や体が黄色くなる)・腹水が溜まるなどの症状が出現します。
胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が深く関与しています。ヘリコバクター・ピロリ菌は胃に感染する細菌で、幼少期に感染すると成人になっても感染が持続し、慢性胃炎を引き起こし胃がんの原因となります。ヘリコバクター・ピロリ菌は内服薬によって除菌することで、胃がん発生のリスクを下げられることもわかっています。その他、塩分の過剰摂取、喫煙、飲酒、運動不足も胃がんの原因となるとされています。
胃がんの検査には、上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査とバリウム造影検査が広く行われています。どちらも胃がんの発見に有用な検査ですが、胃カメラ検査の方がより小さな病変を見つけられるとされています。また、ピロリ菌によって引き起こされる慢性胃炎が広がっているほど将来の胃がんのリスクが高いことがわかっていますが、胃カメラ検査であれば慢性胃炎の広がりも見ることができます。腹痛・腹部不快感など症状のある人の胃カメラ検査はもちろんですが、ピロリ菌の感染歴のある方は非感染者と比べると除菌後も胃がんのリスクが高いことがわかっているため、定期的に胃カメラ検査を行い、胃がんを早期に発見できるよう努めています。そして、胃カメラ検査で胃がんが見つかった場合には、その組織の一部を採取(生検と言います)し、病理組織検査(顕微鏡で観察)を行い診断します。胃がんと診断された場合は、特殊な胃カメラを用いた拡大観察による粘膜内の深達度評価や造影CT検査・MRI検査・PET-CTなどでの他の臓器への転移の有無の評価により、進行度を決定してから適切な治療を選択します。
病変が粘膜内にとどまる早期の胃がんでは胃カメラによる切除、転移が近傍のリンパ節にとどまる場合は外科手術をすることで根治を目指します。しかし、すでに他の臓器に転移しているなど外科手術ができない場合には、抗がん剤を用いた全身化学療法を行います。化学療法は、根治を目指すものではありませんが、がんの進行を抑えることで予後を延長することが期待できます。また、手術によって取り切れるかどうかギリギリの症例では外科手術の前に「術前補助化学療法」を、手術後に再発のリスクが高いと判断された場合は再発を予防するために「術後補助化学療法」を行うことがあります。抗がん剤には、点滴と内服のものがあり、どちらかだけを使用するときと、組み合わせて使用するときがあります。事前に採取した病理組織を用いて、特定のタンパクや遺伝子の異常を検査することで、より効果が期待できる抗がん剤を選択します。通常2-3週間に1回の頻度で外来に通院し、抗がん剤の点滴や処方を受けます。
(共通 化学療法について)
はじめて化学療法を受ける場合や、抗がん剤の種類を変更する場合は、原則的に入院が必要となります。なぜなら、抗がん剤には、吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感、食欲不振、アレルギー、貧血、ホルモン障害などの副作用があるためです。副作用に対しては、症状を軽減するための薬を併用する、必要に応じて他の専門診療科の診察を受ける、などの対応を入院中のみでなく外来診察でも行い、できるだけ苦痛なく長く化学療法を受けられるように診療していきます。抗がん剤の治療中は、3カ月に1回程度、造影CT検査、MRI検査等の画像検査、採血による腫瘍マーカーの測定を行うことで、抗がん剤が効いているかどうか観察します。一定の時間が経過すると、がんは抗がん剤に対する耐性を獲得し、抗がん剤を投与していても進行しだしてしまいます。そこで、ある抗がん剤の効果が不十分と判断したときには、別の種類へと変更します。使える抗がん剤がなくなってしまいそうなときには、数百種類の遺伝子異常を同時に調べることができる「がんゲノムプロファイリング検査」を行い、効果が期待できそうな抗がん剤が見つかった場合には、患者申出療養や治験という形で抗がん剤治療を行う場合があります。