十二指腸がんと小腸がんは、希少がんと言われる珍しいがんに分類されます。早期の十二指腸・小腸がんでは特徴的な症状が見られないことが多く、早期発見は難しいとされています。一部の十二指腸がんについては上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査で偶然に早期発見されることがあります。
十二指腸がんは発生する場所により大きく2つに分けられます。消化液である胆汁の出口であるVater(ファーター)乳頭に生じた乳頭部がんと非乳頭部のがん(主には腺がん)です。乳頭部がんは胆道がんに分類されており、進行すると胆汁の流れがせき止められることで黄疸(目や体が黄色くなる)の症状が出現したり、膵液の流れをせき止めることで膵炎を発症し、強い腹痛が出現することがあります。非乳頭部がんが進行すると、腹部違和感・食欲不振・貧血・体重減少といった他の病気でも起こるような症状が出現し、さらに進行した際は消化管の通り道を塞いでしまい、腸閉塞(腹痛・嘔吐)を来たすことがあります。
小腸がんが進行した場合の症状は、腹部違和感・食欲不振・貧血・体重減少に加え、腸閉塞(腹痛・嘔吐)をきたすこともあり、十二指腸非乳頭部がんと似た症状を起こすと考えられます。
十二指腸がんと小腸がんの原因は、現在のところはっきりしていません。しかし、家族性大腸腺腫症の方は十二指腸がん・小腸がんの発症率が高いことが分かっており、またクローン病・潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の方やポイツイエガース症候群・リンチ症候群などの遺伝性疾患の方は小腸がんの発症リスクが高いことが報告されています。そのため、上記の疾患の方は当院では定期的な消化管内視鏡検査を行うことで、早期診断に努めるようにしています。
十二指腸がん・小腸がんは早期に発見することが難しいため、疑われる状況は様々なパターンが考えられますが、一般的な流れとしては血液検査(腫瘍マーカーなど)を行い、その後必要と考えられる内視鏡検査やCT検査を施行します。内視鏡検査は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査や下部消化管内視鏡(大腸カメラ)検査に加え、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡といった特殊な内視鏡検査も含めた中から、必要な内視鏡検査を選択し施行します。消化管のがんは、組織を採取し顕微鏡で検査することで診断に至りますので、状況によっては特殊な内視鏡を使用してしっかりと組織を採取することが、がんの診断にとても重要です。
がんの切除が可能な場合には外科的手術を第一に考えますが、がんの進行の程度や転移病変の有無などを評価して外科的手術が行うことができない場合に全身化学療法を行います。
消化管のがんでは腺組織と呼ばれる上皮組織から発生する「腺がん」の頻度が最も高いとされていますが、十二指腸がん・小腸がんの中には腺がんの他に、神経内分泌腫瘍・肉腫(GIST・平滑筋肉腫)・悪性リンパ腫といった様々な種類のがんが発生することが知られています。それぞれのがんで治療内容が異なるため、詳細について検査の上、治療内容を検討します。(悪性リンパ腫については、血液内科の医師と協力して治療に当たることになります。)
(共通 化学療法について)
はじめて化学療法を受ける場合や、抗がん剤の種類を変更する場合は、原則的に入院が必要となります。なぜなら、抗がん剤には、吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感、食欲不振、アレルギー、貧血、ホルモン障害などの副作用があるためです。副作用に対しては、症状を軽減するための薬を併用する、必要に応じて他の専門診療科の診察を受ける、などの対応を入院中のみでなく外来診察でも行い、できるだけ苦痛なく長く化学療法を受けられるように診療していきます。抗がん剤の治療中は、3カ月に1回程度、造影CT検査、MRI検査等の画像検査、採血による腫瘍マーカーの測定を行うことで、抗がん剤が効いているかどうか観察します。一定の時間が経過すると、がんは抗がん剤に対する耐性を獲得し、抗がん剤を投与していても進行しだしてしまいます。そこで、ある抗がん剤の効果が不十分と判断したときには、別の種類へと変更します。使える抗がん剤がなくなってしまいそうなときには、数百種類の遺伝子異常を同時に調べることができる「がんゲノムプロファイリング検査」を行い、効果が期待できそうな抗がん剤が見つかった場合には、患者申出療養や治験という形で抗がん剤治療を行う場合があります。