食べ物は胃・小腸で消化・吸収され、結腸で水分が吸収され直腸・肛門に至るまでに固形の便になります。進行期の結腸・直腸がんができると、蠕動(腸管の動き)や便の接触によって出血をきたし、血便(便に血液が混じる)や下血(肛門から出血が排出される)が見られます。また、がんが大きくなるにつれ、便の通り道である結腸・直腸の内腔が狭くなり、便通異常(便秘や下痢)や便の狭小化(細くなること)をきたし、腹痛や腹部のはりを感じるようになります。さらにがんが結腸・直腸の内腔を狭くすると腸閉塞になり、腹痛や腹部のはりが強くなり、嘔気や嘔吐もみられるようになり、命に関わる状態となりえます。
赤肉や加工肉、動物性脂肪の摂取や運動不足といった生活習慣が結腸・直腸がんの発生のリスクとなることが知られています。また、一部の結腸・直腸がんでは、家族性大腸腺腫症、リンチ症候群など遺伝性疾患との関連が知られています。
結腸・直腸がんの早期発見という目的で便潜血検査が行われます。この検査が陽性の場合は、がんはもちろんのこと、前がん病変であるポリープなどに便が接触することで付着する微量な血液を捉えています。ただし、炎症や潰瘍などでも陽性になるため、がんやポリープの確定診断を行うためには、さらに大腸内視鏡検査を行い、直接、結腸・直腸の内腔を観察することが必要です。そして、がんが見つかった場合にはその組織の一部を採取(生検と言います)し、病理組織検査(顕微鏡で観察)を行い、診断を確定します。結腸・直腸がんが進行期のものでは、血液検査で貧血を認めたり、CEA・CA19-9といった腫瘍マーカーの上昇が見られることがあります。また進行期の場合には、周囲のリンパ節への転移や、肝臓や肺や大動脈という血管の周囲のリンパ節、また腹膜や骨など他臓器への転移を起こすため、造影CT検査やMRI検査でがんの拡がりを調べます。結腸・直腸がんを手術で切除する場合には、手術前に注腸(肛門から空気と造影剤を注入し、レントゲンで大腸を撮影する)検査を行い、がんの場所と大腸全体との位置関係や周囲の臓器や骨などとの位置関係をみることがあります。
進行期の結腸・直腸がんで、他臓器転移がない場合には外科的手術を行い、根治を目指します。術後に再発を予防するために抗がん剤治療を行う場合があります。他臓器転移があるなどの理由で手術ができない場合は、基本的には抗がん剤治療を行います。ただし、肝臓への転移については大きさが小さく、数が少ないと手術が可能な場合があり、その場合には結腸・直腸がんと転移の両方の手術を行います。さらに、最初は手術困難であっても抗がん剤治療を行って効果が認められた場合には手術を行うことがあるため、抗がん剤治療中の造影CT検査やMRI検査の結果を踏まえながら、外科の先生と相談しながら治療にあたっています。抗がん剤治療を開始する前や最中に結腸・直腸がんにより腸閉塞となってしまった場合は、命に関わることが多いため、姑息(一時しのぎ)的にがんを切除したり、人工肛門を作る手術を行うことがあります。手術による身体への負担が大きいと判断した場合には、大腸内視鏡を使用して金属ステントという筒状のものをがんで狭くなった場所に置き、腸閉塞の治療をすることがあります。
(共通 化学療法について)
はじめて化学療法を受ける場合や、抗がん剤の種類を変更する場合は、原則的に入院が必要となります。なぜなら、抗がん剤には、吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感、食欲不振、アレルギー、貧血、ホルモン障害などの副作用があるためです。副作用に対しては、症状を軽減するための薬を併用する、必要に応じて他の専門診療科の診察を受ける、などの対応を入院中のみでなく外来診察でも行い、できるだけ苦痛なく長く化学療法を受けられるように診療していきます。抗がん剤の治療中は、3カ月に1回程度、造影CT検査、MRI検査等の画像検査、採血による腫瘍マーカーの測定を行うことで、抗がん剤が効いているかどうか観察します。一定の時間が経過すると、がんは抗がん剤に対する耐性を獲得し、抗がん剤を投与していても進行しだしてしまいます。そこで、ある抗がん剤の効果が不十分と判断したときには、別の種類へと変更します。使える抗がん剤がなくなってしまいそうなときには、数百種類の遺伝子異常を同時に調べることができる「がんゲノムプロファイリング検査」を行い、効果が期待できそうな抗がん剤が見つかった場合には、患者申出療養や治験という形で抗がん剤治療を行う場合があります。