ウイルス性肝炎はウイルスが感染し肝臓の中に入り込むことでおきる病気です。病気が長引くことで肝硬変や肝細胞がんを起こす可能性があり、現在様々な治療薬が開発されています。
慢性肝炎の段階では、倦怠感などの症状が一部の方にあるのみで、ほとんどの場合自覚症状はありません。慢性の炎症状態が続くと、肝臓の線維化が進行し、肝硬変に至ります。肝硬変の中でも初期の段階では無症状であることもありますが、さらに進行すると、お腹に水(腹水)がたまることによる腹部膨満感、皮膚や白眼が黄色くなる黄疸といった症状が出てくることがあります。
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。母から乳幼児への母子感染(垂直感染)、および輸血や性交渉、針刺しなどの水平感染があります。現在では、母子感染防止策により抗HBs人免疫グロブリンおよびB型肝炎ワクチン投与により、母子感染率は大幅に低下しています。
C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染し、本邦では以前の輸血や血液製剤の投与によるものがほとんどと考えられていますが、献血時のスクリーニングシステムの発達により、現在では輸血や血液製剤による新規のC型肝炎発生例はほぼゼロに近い状況です。慢性肝炎が持続すると、徐々に線維化が進行して肝硬変に至り、さらに肝細胞がんを発症することがあります。
B型肝炎については、HBs抗原を測定し陽性であれば、現在B型肝炎に感染していることを意味します。HBV-DNAは血液中のウイルス量のことで、ウイルス量が多いほど、肝硬変・肝細胞がんのリスクが高くなるとされています。HBV遺伝子型は後で詳述する治療効果に関わります。本邦では遺伝子型Cが多いですが、近年では遺伝子型Aが増えてきています。一方、B型肝炎に一度罹患し、その後HBs抗原が消失しても、肝細胞内から完全にB型肝炎ウイルスが排除されたわけではなく、抗がん剤や免疫を抑える治療を行う際には注意が必要となります。(通常HBs抗原陰性でHBc抗体陽性の状態を既往感染と言います。)
C型肝炎については、まずHCV抗体検査を行います。陽性であれば現在の感染、または過去に感染し現在はウイルスがいない既往感染の2通りが考えられます。これらを区別するためHCV-RNAを測定し、陽性であれば、現在感染していると診断します。C型肝炎ウイルスは遺伝子型が1-6型まであり、本邦では1型、2型が主となっています。
B型肝炎ウイルスは一度感染すると体内から完全に排除することは困難です。このため治療目標は肝炎を抑え、肝硬変・肝細胞がんへの進行を抑えることになります。治療法としては、インターフェロン療法と核酸アナログ製剤があります。インターフェロン療法は週1回の注射薬を24-48週間投与し免疫を賦活化させることで抗ウイルス効果が得られる治療法です。ウイルス抑制効果は高くはないものの、一定の効果は見込まれ、治療期間終了後も効果が持続しうるというメリットがありますが、発熱など様々な副作用があります。若年者、肝線維化が進行していない、遺伝子型A,Bなどは効果が高いとされており、まずインターフェロン治療の適応はないかを検討します。一方、内服薬である核酸アナログ製剤は、ウイルスの複製を抑制することで強力な抗ウイルス効果があります。近年では、薬剤耐性ウイルスの出現率の低い製剤が使用可能となっています。副作用はほとんどなく使用しやすい薬剤ですが、長期に内服し続けなければなりません。2つの治療法を両者の特徴に応じて使い分けることが必要です。
C型肝炎については、これまでインターフェロンを用いた治療が行われてきましたが、副作用も多く、ウイルス駆除達成率は十分ではないという状況でした。しかし2014年から抗ウイルス効果が高く副作用の少ない経口剤の直接作用型抗ウイルス薬が使用可能となり、ほとんど全ての患者さんでウイルス駆除が達成可能となりました。現在では治療期間は8-12週間と短縮され、C型肝炎に対する治療は著しい進歩を遂げています。
一方で、近年の治療の進歩によりB型肝炎ウイルスを抑制し、C型肝炎ウイルスを駆除することができるようになっても、ウイルス抑制下、ウイルス駆除後の肝発がんといった問題は残っています。定期的な肝発がんサーベイランスの継続は重要と考えられます。
当科ではB型肝炎に対する核酸アナログ製剤を約900例に、C型肝炎に対する直接作用型抗ウイル薬を約1000例の患者さんに対して投与し、ほとんどの症例でウイルス抑制、ウイルス駆除を達成しています。また、肝発がんサーベイランスを継続して行い、肝細胞がんの早期発見に努めています。