脂肪肝は肝臓に中性脂肪が過剰にたまった状態(肝臓全体の5%以上)ですが、飲酒習慣のない人に見られるものを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)と呼びます。日本では健診受診者の約30%が脂肪肝と言われており、肥満人口の増加とともに年々その数が増えています。NAFLDの中には肝硬変や肝細胞がんに至るタイプの非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:non-alcoholic Steatohepatitis)もあるので注意が必要です。
健診の腹部超音波検査などで偶然見つかることが多く、特に症状はありません。多くの場合採血で肝機能異常を指摘されます。病態が進行しても自覚症状はなく、肝不全になってはじめて黄疸・腹水貯留・倦怠感・出血傾向などの症状が出現します。
NAFLDの最も重要な原因は肥満で、メタボリックシンドロームと密接な関わりがあります。多くの場合、生活習慣病(糖尿病・脂質異常症・高血圧など)を合併し、これら複数の要因がNASH/NAFLDの病態進展に関わっていると考えられています。
NASH/NAFLDにより炎症が持続すると肝臓に線維が沈着します、これを線維化とよびます。線維化が進行すると元に戻らなくなってしまい、肝不全や肝細胞がんを発症するリスクが高くなることが知られています。(図1)
特にアジア人は軽度の肥満でも内臓脂肪が増え脂肪肝になりやすいことが知られています。日本でも痩せていても少しの体重増加で脂肪肝になってしまう「非肥満NASH/NAFLD」の人が一定数おり問題となっています。
(図1)
肝障害を指摘された方が、体重増加やメタボリックシンドロームを合併していると脂肪肝を疑います。脂肪肝かどうかを判断する最も簡単な検査は腹部超音波検査です(図2)。超音波で肝臓が明るく見える(高輝度肝)などの所見があれば脂肪肝と判断できますが、軽度の脂肪肝(肝臓全体の30%以下の脂肪沈着)は診断が難しいと言われています。
最近ではエラストグラフィという検査で肝臓の硬さを測定することで、肝線維化の程度を数値化して推測することができます。FibroScan®は肝硬度測定と同時に肝臓にたまった脂肪量も測定できますので、当院でも活用しています。
NAFLDで重要なのはNASHかどうか、線維化がどの程度進んでいるかですが、これらを正確に診断するには肝生検による肝組織評価が必要です。肝生検は肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で肝組織の状態を診断する検査で、NAFLD以外の病気が隠れていないか調べることもできます。ただし、肝生検は入院を必要とする検査でNAFLD全例で実施することは現実的でないため、上述したような検査を用いてNAFLDの中から肝病態が進展した高危険群を囲い込むことが重要です
(図2)
NAFLDに対する治療の原則は、食事療法、運動療法などの生活習慣の改善です。NAFLD患者さんの死因は多い順に、①心筋梗塞などの心血管障害、②肝細胞がん以外の他臓器がん、③肝細胞がん・肝硬変、と言われており、肝臓だけでなく肥満を背景として全身に様々な病気を発症します。生活習慣の改善によりNAFLDに合併する肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧を是正し、肝臓だけでなく全身の合併疾患発症を予防します。
脂質異常症・糖尿病・高血圧の治療薬の中にはNAFLD/NASHに対して有効性が期待されるものもありますが、いずれも定まった評価が得られておらず、現時点では残念ながらNAFLD/NASHに対する薬剤での治療法はありません。その他に、肥満症の治療として実施されている減量手術(スリーブ状胃切除術)によりNASHが改善するという報告があります。
当科では脂肪肝の方が数多く通院されています。採血、腹部超音波検査、肝硬度測定(フィブロスキャン®)などを用いて肝臓の状態を評価し、高危険群であれば肝生検での精密検査をお勧めしています。
2004年1月から2018年12月までに当科で386人のNAFLD患者さんに肝生検を実施しており、そのうちNASHと診断された方は
312人、高度の線維化があった人(F3)が85人、すでに肝硬変に至っていた人(F4)は31人でした。肝硬変に進展すると元の状態には戻せなくなってしまうので、脂肪肝と言われたら一度専門施設で肝臓の評価を受け、しっかりと対策することをお勧めします。