急性肝不全は肝臓の働きが何らかの理由により急激に低下した病状のことを言います。命にかかわることがあり、早急に適切な対応が必要とされます。
急性肝不全で最初に認められる症状としては、発熱や関節痛などの感冒症状、全身の倦怠感や食欲不振が挙げられます。続いて肝臓の機能不全から、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)や褐色尿が見られるようになります。最初の感冒症状が軽く、黄疸に気づいてから初めて病院を受診される場合もあります。
病気が進行すると、肝臓の機能不全から様々な症状が出てきます。肝臓では有害な物質の解毒を行っており、毒性物質の蓄積により脳に影響が出て肝性脳症と呼ばれる意識障害が出現します。悪化すると、場所や時間を間違えたり、興奮して暴れたりするようにもなります。さらに重症になると、眠ったままで呼びかけにも反応しない肝性昏睡に陥ります。また、ビリルビンと呼ばれる色素も代謝できなくなり、先述の黄疸が出てきます。人体に必要なタンパク質の合成も肝臓の大切な役割であり、その中でも血液を固めるために必要な凝固因子が最も不足しやすく、血が止まりにくくなり、皮下や口の中などに出血を認めます。
急性肝不全は、ウイルスの感染、薬物アレルギー、自己免疫、循環不全などが原因で起こります。ウイルス性が約3割ですが、その中ではB型肝炎、A型肝炎が多くを占めます。薬物アレルギーは、病院で処方される薬に加えて、市販薬やサプリメントなどが原因となることもあります。様々な検査を行っても原因が分からない症例が現在でも約3割あり、これを明らかとすることが今後の課題です。
肝臓の細胞が急激に壊れることによって、肝臓の機能が極端に低下し、生命の維持に赤信号が灯る病気が急性肝不全です。肝臓は壊れても再生する能力に富んでいるため、多くの場合は、自然に元の状態に戻ります。しかし、急性肝不全では、肝細胞の破壊が極めて大規模にかつ急激に起こるため、再生が間に合わず先述のような様々な症状を呈するとともに、適切な治療を行わないと高頻度に死に至ります。
健康な人に感冒症状や倦怠感、食欲不振などの最初の症状が現れてから8週間以内に、急激な肝臓の障害と機能不全を原因として、血液中での凝固因子の濃度が一定の値以下に低下した場合に急性肝不全と診断します。プロトロンビン時間が診断の指標となり、40%以下または関連する数値であるPT-INR1.5以上が基準です。明らかな肝性脳症(II度以上)を認めるものを昏睡型、I度までのものを非昏睡型と呼びます。肝性脳症II度は、傾眠傾向、異常な行動、時間や場所の間違いが主な症状ですが、羽ばたき振戦と呼ばれる手を前に伸ばした時に指や手首が激しく揺れてしまう所見が一つの特徴です。
原因の検索のためには、各種ウイルスの感染状況の検査に加えて、自己免疫やホルモンなどに関連する様々な血液検査を行います。さらに、腹部エコーやCT検査などで肝臓や全身の状態について調べていきます。
急性肝不全に至った原因がはっきりとしていれば、原因に応じた治療を行います。例えば、主な原因であるB型肝炎には核酸アナログ製剤とよばれる抗ウイルス薬を、自己免疫性肝炎には副腎皮質ステロイドを投与します。原因によらず共通の治療としては、まずはできるだけ安静にしていることで肝臓への血流が保たれるようにします。食欲が低下すれば点滴を行います。
血圧の低下や呼吸の障害などが出現した際には、集中治療室に入って全身の管理が必要になります。また、肝臓で代謝できなくなった毒性物質の除去と不足してしまう凝固因子の補充を目的として、血液ろ過透析や血漿交換(あわせて人工肝補助療法)と呼ばれる大がかりな治療が行われます。これらの内科的治療で改善が望めない場合には、肝移植が行われます。