肝臓で産生された胆汁が十二指腸に流れるまで通り道を胆道と言い、そこにできた癌のことを胆道癌と言います。胆道癌には、肝内胆管癌、肝外胆管癌(肝門部領域胆管癌・遠位胆管癌)、胆嚢癌、乳頭部癌が含まれます。
胆道癌は胆汁の通り道である胆道にできる癌であるため、しばしば胆汁の流れがせき止められて黄疸をきたします。一部の胆嚢癌や肝内胆管癌では総胆管から離れて癌ができるため、黄疸を呈さない場合もあります。黄疸になると、尿が濃くなったり、白眼が黄色くなったり、皮膚のかゆみが出たりすることがあります。胆管自体にできる癌(肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌、乳頭部癌)では、比較的早期の段階で黄疸を呈するため、体重減少や痛みなどの症状を呈さないこともあります。一方で、黄疸を呈しにくいところにできた一部の胆嚢癌や肝内胆管癌では、比較的進行した段階で発見されることも多く、体重減少や食欲不振、右側腹部の痛みを呈することがあります。
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日本は世界的にみて、胆道癌が多い国とされております。また胆道癌のうち胆管癌はやや男性に多く、胆嚢癌はやや女性に多いという特徴があります。しかし多くの胆道癌では原因を特定することができません。しかしごく一部ではありますが、胆道癌になりやすい病気を持っている方がいます。
① 膵・胆管合流異常症
膵管と胆管は本来十二指腸乳頭部で合流し、別々に十二指腸に消化液を排出しますが、膵管が十二指腸乳頭部より手前で胆管に合流することにより、膵管を流れる膵液が胆管に逆流してしまう病気のことを言います。わが国で行われた膵・胆管合流異常症の全国集計では、胆管拡張がある場合には10.6%、胆管拡張がない場合には37.9%の頻度で胆管癌や胆嚢癌を合併すると報告されております。
②原発性硬化性胆管炎
胆管に慢性炎症を引き起こす原因不明の病気として、原発性硬化性胆管炎という病気があります。国内の総患者数は約1200人程度と推計されており、国の難病対策として制定される特定疾患となっています。原発性硬化性胆管炎の約10%に胆管癌を合併すると言われております。
①血液検査
肝胆道系酵素(AST, ALT, γGTP, ALP, T.Bil)上昇や腫瘍マーカー(CEA,
CA19-9)高値がきっかけで診断に至ることがあります。ただし、早期の胆道癌では腫瘍マーカーが上昇しないこともあります。一方で閉塞性黄疸になると、癌がなくても腫瘍マーカーが上昇することがあります。そのため、これらの採血検査のみで胆道癌を早期に診断することは困難です。
②画像検査
(1) 腹部超音波検査
腹部超音波検査では肝臓内や胆嚢、胆管を観察することができますが、病変の場所や消化管ガスの状況によっては、必ずしも癌そのものを描出できるとも限りません。しかし癌による胆管閉塞の結果、末梢胆管が拡張してくることが多いため、胆管の拡張を認めた場合は、胆道癌を疑うきっかけになります。
(2) 造影CT検査
造影剤を用いてCT検査を施行すると、胆道癌自体を同定することが可能となります。腹部超音波検査とは異なり、胆道の周囲も含めた全体像の評価できます。そのため周囲の血管との位置関係のみならず、遠隔転移の評価も可能となります。ただし胆道に炎症が起きている時にも胆道が造影されるため、癌の診断には総合的な判断が必要となります。
(3) MRI (MRCP)検査
癌自体の評価とともに、胆管の閉塞状況などを画像で評価することができます。胆道癌ではしばしば胆管が複雑に閉塞することもあるため、胆管像の評価に役立ちます。
(4) 超音波内視鏡検査
内視鏡の先端に超音波の機械がついた特殊なカメラを口から飲んで頂き、胃や十二指腸からその裏にある胆道を詳しく超音波検査する精密検査です。胆道により近い位置から超音波検査するため、胆道癌周囲の詳細な情報を得ることができます。
(5) ERCP検査
口から特殊な内視鏡を飲んで頂き、十二指腸乳頭部より胆管内に処置具を挿入して行う精密検査です。体に負担のかかる検査ですが、癌の確定診断をつけるために病変から直接組織を採取したり、手術の術式を決めるために癌の進展範囲を評価すること可能です。また黄疸を解除するために、詰まった胆管にチューブを留置して流れを確保したりします。
胆道癌と診断されたら、まず手術の可能性を検討します。胆道癌の手術は比較的大きな手術になることが多いため、病変の拡がりに加えて、全身状態(心機能、肺機能など)が手術に耐えられるか評価することが必要となります。手術の難易度の高いため、胆道癌の手術に慣れた施設で行うことが望ましいと考えられています。一方で遠隔転移(肝転移、肺転移、腹膜播種など)があるような状況で無理に手術をしても良好な治療成績が得られないため、手術適応については厳格に検討する必要があります。
診断時に遠隔転移があり切除不能と判断されたり、手術後に再発が認められた場合などには、内科的治療を行います。放射線治療は一部の胆管癌などで行うこともありますが、内科的治療の基本は抗癌剤治療になります。胆道癌に対して内科的治療を行う際に最も重要なことは、胆汁の流れを良好に確保する処置となります。胆汁の流れが悪いと、黄疸や感染を生じ、抗癌剤治療を中断することになります。胆道癌ではしばしば胆管にステントを留置しながら抗癌剤治療を行うことになります。留置したステントも治療経過中にたびたび詰まってしまうため、いかに迅速に対応して、治療の中断を短くするかも重要となってきます。胆道癌の内科治療を行ううえで、抗癌剤治療の経験のみならず、胆管ステントの管理に習熟した施設での治療が望ましいと考えられています。
当科では毎年50名前後の胆道癌患者さんの診療をしています。術前診断のみならず、切除不能例・術後再発例に対する抗癌剤治療も数多く施行しております。また現状の治療よりも高い治療成績を目指した臨床研究も積極的に行っています。年間1000件近くのERCP検査を施行しており、胆管ステントの管理にも迅速に対応しています。