ラジオ波焼灼術は肝がんを死滅させるために行う治療です。ラジオ波とはAMラジオで使われる周波数に近い約450キロヘルツの高周波で、医療現場では電気メスで使用される高周波と同じものです。
腫瘍の中に直径1.5ミリの電極針を挿入してラジオ波電流を流し、電極周囲に熱を発生させることでがん細胞を凝固(固めること)させます。固まった細胞はその機能が失われ、まもなく死滅してしまいます。ラジオ波焼灼術は1995年頃に欧米で開発され、日本では1999年頃から広く臨床使用されています。2004年4月には日本でも保険適用となり、現在では肝がんに対する標準的な治療として位置づけられています。
当科では電極と肝臓を超音波装置で観察しながら、皮膚を通して肝臓内に挿入する方法(経皮的ラジオ波焼灼術)で治療を行っています。そのほかに、お腹の中や胸の中にカメラを入れて観察しながら(腹腔鏡下、胸腔鏡下)、あるいはお腹を開いて直接観察しながら(開腹下)電極を挿入する方法を用いている施設もあります。
図1 ダブルバルーン内視鏡
マイクロ波凝固療法は、超音波ガイド下にアンテナ(ラジオ波での電極針)を経皮的に腫瘍に挿入し、2450メガヘルツ前後の高周波を使い熱で腫瘍を壊死させる治療法です。マイクロ波治療、MWA(Microwave
ablationの略)などとも呼ばれ、本邦では2016年11月に薬事承認され、2017年7月に保険適用となりました。
必要とする技術や機器も同様でありラジオ波焼灼術と似た治療ですが、1回の穿刺、焼灼でこれまでのラジオ波焼灼術よりも大きな範囲を短時間で安定して焼灼できるという長所があります。ラジオ波焼灼術であれば複数回穿刺する必要がある病変も、マイクロ波凝固療法を選択することで、中心部の1回穿刺で十分な焼灼範囲を短時間で得ることが出来る可能性があります。
東大病院消化器内科ではこれまでにのべ10000例以上の患者さんにラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法を行ってきており(2018年末時点で約10600例)、おそらく単一施設としては世界で最多の症例を治療しています。当院で過去に肝がんに対する初回治療としてラジオ波焼灼術を行った患者さん1170人を調査したところ、5年生存率は約60%という結果でした。また、治療後の局所再発率(ラジオ波焼灼術で治療した部分にがんが残ってしまい、そこから再発してくること)は術後5年間で3.2%と低率であり、高い根治性を持っています。そもそも肝がんは再発が非常に多いがんであり(術後5年で約80%の方に再発するといわれています)、繰り返し治療が必要となることがありますが、体に負担の少ないラジオ波治療、マイクロ波凝固療法は肝機能が許す限り繰り返し行うことができるというメリットがあります。
ラジオ波波焼灼術・マイクロ波凝固療法を行うことが最適かどうかは個々の患者さんに応じて予想される効果と安全性を考慮して最終決定しますが、当科ではおおよそ以下の様な基準で行っています。
一般に次のような場合はラジオ波ができません。
1. 外来受診
ラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法を希望される場合はまず外来を受診してください。医療機関からの紹介状を持参いただくと診療がスムーズに進みます。外来では肝機能・全身状態の評価、CT/MRI検査、超音波検査などを行います。
2. 入院予約
ラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法が可能と判断されたら入院の予約をとります。ベッドの空き状況にもよりますが、予約から入院までだいたい2~3週間程度です。
3. 入院
治療1~3日前に入院して頂きます。入院後に病状および治療について、術者から御本人・御家族に詳しく説明をさせていただきます。
4. 治療当日
朝から点滴をします。胃の中に食べ物が入っていない方がより安全に治療を行えるため、朝食は摂らずにきていただきます。治療室に入ったら上半身脱衣の上、手術台に仰向けになっていただきます。背中あるいは両太ももに対極板を貼り、皮膚の消毒をします。
鎮静剤や鎮痛剤を点滴から注入します。いわゆる全身麻酔とは異なりますが、治療中はほとんどの患者さんは眠ってしまい痛みを感じない状態になります。
超音波でがんの位置を確認しながら電極を挿入し、電流を流して周囲の組織に熱を発生させ、がんを破壊します。1ヶ所の焼灼にかかる時間は約6~12分間で、2~3cmの球状の範囲が焼灼されます。腫瘍の大きさや数によっては電極を何回かに分けて挿入し焼灼します。治療にかかる時間は、病変の数、部位、見えやすさなどにより違ってきますが、通常30分から2時間です。術後6時間は主にお腹の中への出血を防ぐためにベッド上で安静にしていただきます。この間寝返りは可能ですが起き上がらないようにしていただいています。術後6時間以降は上半身を起こして、食事など可能となります。翌朝の担当医の回診までは、なるべくベッド上で安静にしていただきます。
5. 治療効果判定
ラジオ波焼灼・マイクロ波凝固によりがんが十分焼灼されたかどうかは、治療翌日以降に施行するCTで評価します。CTの結果で追加治療が必要と判断された場合、全身状態の回復を待ってから入院中に再度ラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法を行うことがあります。1回の入院で施行されるラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法は原則2回までです。出血などの合併症が何日か経過してから起こることもあるため、退院は最短でも治療後3日目となります。
6. 退院後
退院して2-3週間後に外来に来ていただき、術後の状態をチェックさせていただきます。問題なければその後は原則4か月間隔でCTやMRIで肝がんが再発しないかチェックを行います。
検査・治療には必ずある程度の危険性が伴います。ラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法は外科手術と比較し、体への負担が比較的少ない治療法ですが、それでも治療に伴い合併症が起きることがあります。もし副作用や合併症が起きた場合にはそれに対する処置・治療を行います。当科でのこれまでの治療における重篤な合併症の発生率は2.4%(10088例中243例)です。またごく少数ではありますが、ラジオ波焼灼術・マイクロ波凝固療法術後、入院のまま死亡した症例が10088例中9例あります。