肝細胞がんは肝臓の中にとどまることが多いがんですが、治療の経過中、肺や骨、リンパ節などの肝臓の外の組織に転移したり、肝臓内の血管や胆管の中に入ったりすることがあります。ラジオ波焼灼術や肝動脈塞栓術は、肝臓の中の腫瘍を治療する方法で、肝臓の外に出た腫瘍は薬物療法(抗がん剤の治療)によって治療します。また、腫瘍が肝臓の中にとどまっている場合でも、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術でがんの進行を抑えられない場合は、薬物療法の対象となります。肝細胞がんは抗がん剤が効きにくいがんとして知られていましたが、2009年5月ソラフェニブ(一般名)という内服薬が使用できるようになり、同様の内服薬として2017年にレゴラフェニブ、2018年にレンバチニブ、さらに2019年にはラムシルマブという点滴薬が使用可能になりました。2020年にテセントリク・アバスチンという免疫チェックポイントと分子標的薬の併用療法が今までの治療よりも高い効果を示し、現在は第一選択薬となりました。さらにカボザンチニブという内服薬も使用できるようになり、6種類の抗がん剤を使用することが可能となりました。さらに現在も免疫チェックポイント阻害剤を中心に様々な治験が行われています。東大病院消化器内科でもこれらの薬を上手く使いながら、肝細胞がんの患者さんの治療を行っています。
一般的に、どんな抗がん剤治療にも副作用が起こる可能性があり、肝細胞がんの場合もそれは同じです。食欲不振、倦怠感、下痢、手足症候群(手や足の皮膚が厚くなり、ひどい場合は歩くときに痛みを伴います)、高血圧、蛋白尿、甲状腺機能異常、間質性肺炎(薬剤による肺炎)など様々な副作用が挙げられます。さらに免疫チェックポイントでは免疫関連有害事象と呼ばれる免疫細胞が暴れることで全身に副作用を生じる可能性があります。特に脳炎や心筋炎などの命に係わる副作用が治療終了後にも生じる可能性があります。抗がん剤治療にあたっては、これらの副作用を早期発見し、上手に対処していくことが重要になってきます。東大病院では、消化器内科だけでなく、肝胆膵外科、泌尿器科、皮膚科、循環器内科、内分泌内科、看護部、薬剤部が協力して、患者さんが安心して治療を続けられるようにチームを組んで副作用対策に取り組んでいます。
肝細胞がんに効果が期待される新しい薬剤の開発が、現在も各製薬会社で進められています。このような、まだ一般的には使用できない試験段階の薬剤は、「治験」という薬剤の効果や安全性を検証するための試験を経て承認されていきます。東大病院消化器内科では、臨床試験支援センターと協力し、このような新規薬剤の治験にも積極的に参加しています。