腹部超音波検査は、超音波という高周波数の音波を用いて体の中の臓器から反射する波を画像化する検査です。反射した超音波を画像にするため、放射線のような体への影響はありません。消化器内科で行う腹部超音波検査では、肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、脾臓を対象に検査を行いますが、超音波検査によってこれらの臓器の異常や疾患を見つけることのできます。食事によって胃が膨らんでしまうと、胃の後ろにある膵臓などの臓器が見えにくくなることや、胆嚢が食事で縮んでしまい胆嚢の病気が見つけにくくなることがあるため、水やお茶の摂取は可能ですが検査前6時間は絶食で検査を行います。
我々は、この検査を主に慢性肝炎や肝硬変など慢性的な肝臓の疾患のある患者さんに対する肝細胞がんの早期発見のために使用しています。肝臓学会のガイドラインでは、肝臓に慢性的な疾患を持つ肝細胞がん発症のリスクの高い患者さんに対して、定期的な超音波検査を行うことが推奨されています。肝臓の腫瘤には治療の必要のない良性の腫瘤と治療が必要な悪性の腫瘤(肝細胞がんは悪性の腫瘤です)がありますので、超音波検査で肝臓に腫瘤が見つかった場合にはCT検査などの精密検査をお勧めすることがあります。また、超音波検査によって生活習慣から起こる脂肪肝による肝臓の変化や胆石などを観察することもできます。
フィブロスキャンは、肝臓の硬さを測定する検査です。長期間にわたって肝臓に慢性的な炎症が続くと、炎症によって肝臓が壊され、壊された部分を修復することを繰り返すことで、肝臓の細胞が通常の機能を果すことのできないケロイドのような線維成分に置き換わることで、肝臓が硬くなり肝硬変に至ります。この線維化が進行すると、肝細胞がんが発生するリスクが上昇するため、慢性的に肝臓に病気を持つ患者さんの肝線維化の度合いを診断することは、その患者さんに肝細胞がんが発症するリスクを知る上でとても重要になります。従来、肝臓の線維化診断には、肝臓に針を刺して顕微鏡を使った病理診断のための組織を採取する肝生検が行われていましたが、フィブロスキャンは肝生検と異なり体に傷をつけることのない非侵襲的な検査です。
フィブロスキャンは、装置を用いて体表から機械的な振動を起こすことでせん断波という波を発生させて肝臓に伝えます。せん断波は肝臓が硬ければ早くなり、柔らかいと遅くなるため、肝臓に伝わる波の速さを測定することで肝臓の硬さを測定します。検査に要する時間は5-10分程です。
(フィブロスキャンを使った肝硬度測定: 株式会社インテグラルHPより)
フィブロスキャンを用いることで、肝臓の線維化の状態を把握することが出来ます。痛みや侵襲のない検査ですので、検査を繰り返し行うことができ、肝臓の状態の経時的な評価が可能です。フィブロスキャンは2.5~75キロパスカルの数値で結果が表示され、数値が高いほど肝臓の線維化が進行しています。また、フィブロスキャン検査の際には同時に肝臓の脂肪含有量を測定するので、脂肪肝の程度も同時に診断できます。
フィブロスキャンは、肝臓の線維化を非侵襲的に判定することが出来る有用な検査ですが、肋骨の間からせん断波を肝臓に送るため、肋骨の間が狭い患者さんの場合には肋骨によって測定値が影響を受けてしまう、腹水のある患者さんの場合や高度肥満の患者さんには測定が困難なことがあるなどの問題もあります。また、線維化以外にも肝臓の炎症や脂肪化によっても値が上昇することがあり、正しく肝臓の線維化診断を行えないこともあります。
現在、国内に1000万人以上脂肪肝の患者さんがいると言われており、その中の200万人以上が将来的に肝硬変や肝細胞がんへ移行しうる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であると推測されています。当院では、検診などで脂肪肝と診断され医療機関への受診を勧められた患者さんの中から、肝臓の精密検査である肝生検が必要な患者さんを見つけるための検査としてフィブロスキャンを行っており、フィブロスキャンの結果によっては入院での肝生検をお勧めすることがあります。